私の心を開放した、“オープンマインド”な旅、本、音楽 Special Contents BRUTUS No.879
Special Contents 私の心を開放した、“オープンマインド”な旅、本、音楽
あえて自分を縛る旅のルールを作ることで自由を手にした人、思考を肯定してくれた本に生き方を支えられた人、ピースフルな民謡の歌詞に勇気づけられた人。オープンマインドといっても、その感覚も人それぞれ。では、9人の心を開放した本、音楽、旅は?
神田松之丞
●講談師
聖地を目指して無心で歩くスペイン巡礼の旅。
数えたら365日のうち360日働く休みのない生活。好きなことなので苦ではない。むしろ楽しい。ただ、二ツ目になりたての頃、同期とアジア各国へ足を延ばしたような自由気ままで開放的な時間はもう味わえないと諦めていた。そんな折、結婚することになり最後の長期旅行だと妻と一緒に選んだのが、カトリックの聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼。ひたすら歩いた2週間。疲労で体はガタガタだけど、無心になり自分に向き合えたのは、何よりの経験になった。●かんだ・まつのじょう/近著に『神田松之丞 講談入門』(河出書房新社)。
スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼/町々にある巡礼宿のアルベルゲなど、見るものすべてが新鮮。まるでドラクエの世界に入り込んだかのよう。講談には旅の演目が多く、毎日30㎞歩く大変さは帰国後の芸にも活かされている。
小野美由紀『人生に疲れたらスペイン巡礼 飲み、食べ、歩く800キロの旅』 (光文社新書) /新婚旅行のきっかけになった一冊。本を読むだけでは意味がないと思っていて、読後の行動がワンセットになって、初めて自分の知識として身につく。
『まるまるぜんぶちびまる子ちゃん』(ポニーキャニオン)/三味線や太鼓はあくまで仕事として触れるもの。基本音楽というものに思い入れがないにもかかわらず、さくらももこさんの訃報の際、耳にした主題歌には無性に郷愁をかきたてられた。
真鍋大度
●アーティスト
photo/Shizuo Takahashi
居場所を変えることがリフレッシュにつながる。
インプットもアウトプットもしないフラットな状態でいるのがオープンマインドに近いとは思うけど、現状ではそういった時間を作るのが困難なため、代わりの行為として意識的に場所を変えるようにしています。幸いにも今は仕事の7割が海外なので、比較的いつも新鮮な気持ちでいられる。とはいえ、仕事は仕事。特に目的地も決めず男3人でスペイン南部をドライブした9年前が懐かしい。当分プライベートな旅行は無理かな。●まなべ・だいと/〈Rhizomatiks Research〉主宰。Perfumeのライブの演出サポートなど様々なプロジェクトに携わる。
スペインのカディス、セビリア/人も気候も料理も景色もすべてが最高だったスペイン南部を巡るドライブ旅行。「electric stimulus to face」で評価を得た後だったので、突然トークショーを依頼されたり、今につながる大切な出会いが多くあった。
ヤニス・クセナキス『音楽と建築』(河出書房新社)/大学生の頃身を置いていたお堅い数学の世界では研究の対象外だった音楽やアートと数学を関連づける僕本来の思考をありだと肯定してくれた一冊。閉じた世界から自由になるきっかけになった。
Jon Appleton『Contes de la Mémoire』(Empreintes DIGITALes)/曲作りのサンプリングネタとして学生時代に購入。難解なサウンドコラージュながらどこか映像的で想像力をかきたてられる。ジョンとは後に留学先の先生として出会うことに。
能町みね子
●エッセイスト
自分の想像を超えた世界と荒涼とした風景に惹かれる。
南国の方が開放的なイメージがありますが、私は北国の方に惹かれます。自分でもなぜかわからないけど殺風景で寂しい風景が好きで、でもぎりぎり人けがある、そんなところに行くとすごく落ち着くんです。地図を見ていても、こんなところにも人が住んでいるんだとか、自分が知らない土地が地球上にこんなにたくさんあるんだなと思ったり、自分の想像を超えたところに思いを馳せるのが、私にとって心が自由になる瞬間なのかもしれません。●のうまち・みねこ/コラム執筆、連載多数。近著に『うっかり鉄道』『中野の森BAND』など。
稚内(わっかない)の西海岸/旅では電車やバスでずっと車窓を眺めています。特に北海道稚内の野寒布(のしゃっぷ)岬まで行く路線バスがあるんですが、その海岸線の景色が素晴らしい。荒涼としていて冬は真っ白で地平と海の区別がつかないほどですが、なぜか癒やされます。
中国の地図/地図が好きで、旅行に行く前もガイドブックでなく地図を見ます。中国には行ったことがないのですが、旅行した友人に買ってきてもらったこの地図もお気に入り。こんな広い国に隅々まで人が住んでいると思うと想像力が膨らみます。
Ton Tay Thein Tan『a chit tit pae.....sit pae tit ya』/このアルバムに限らず、独自の発展をしているミャンマー音楽に惹かれます。音楽への興味から現地へ赴き、訪ねたお宅でピアノ伴奏付きで歌手の生歌を聴くという体験に心が震えました。