文豪と“保養地洋菓子”。 Special Contents BRUTUS No.880
Special Contents 文豪と“保養地洋菓子”。
例えば東京なら文京区をはじめ、かつて文豪たちが多く暮らした街には今も作家ゆかりの菓子店が残る。その足跡は彼らが一夏を過ごし、または晩年に終(つい)の住処(すみか)として選んだ都内近郊の保養地でも辿ることができる。特に伊豆半島エリアでは、当時ハイカラだった洋菓子のエピソードが多く残っている。
例えば無類の美食家として知られた谷崎潤一郎。1950年代、熱海の伊豆山に転居後は、おやつの時間に〈モンブラン〉や〈三木製菓〉のお菓子を愛用したという。若き日の太宰治は、三島で一夏を過ごし、コーヒーを飲みに〈ララ洋菓子店〉へ足繁く通った。そして下田の〈日新堂菓子店〉のマドレーヌは、毎夏この地を訪れた三島由紀夫がことさらお気に入りだった味。高度成長期に日本随一の保養地として栄えた伊豆で、目利きの文豪に見初められた洋菓子たち。戦後の昭和を物語る一片だ。
谷崎潤一郎
熱海〈モンブラン〉のモカロール
〈ホテルニューグランド〉で料理を学んだ先代が仏料理店として昭和22(1947)年創業。後に洋菓子店に。グルマンの谷崎の信頼も厚かった。2つの渦巻きが特徴のモカロールは2代目が味を継ぐ代表作。1個300円。●静岡県熱海市銀座町4−8☎0557・81・4070。10時〜18時30分(土・日〜19時)。水曜休。
熱海〈三木製菓〉のネコの舌
ネコの舌はフランスの焼き菓子「ラングドシャ」を直訳したもので、魅惑のサクサク食感。昭和23(1948)年創業以来の看板で、谷崎本人はもとより東京に住む孫へのお土産にすることもあったとか。130g530円。●静岡県熱海市渚町3−4☎0557・81・4461。9時30分~18時。木曜・第1日曜・第3水曜休。
三島由紀夫
下田〈日新堂菓子店〉のマドレーヌ
1964年から毎夏、家族とともに下田の海を訪れた三島のご贔屓が、ふっくらきめ細かなマドレーヌ。大正11(1922)年創業、店内には氏のサインや写真が飾られる。三島の助言通り、レシピを変えず当時の味を守り続ける。1個190円。●静岡県下田市3−3−7☎0558・22・2263。9時30分~18時。無休。
太宰 治
三島〈ララ洋菓子店〉のベビーシュー
昭和7(1932)年創業。街で唯一コーヒーを出した喫茶室に若き太宰が通った。当時の商品は現存しないが、ベビーシューは今も1934年生まれの2代目が焼く。20個1,474円。●静岡県三島市広小路町13−2☎055・975・0749。10時〜19時。水曜休。