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理系読書99 Special Contents BRUTUS No.884

Special Contents 理系読書99

朝食のベーコンも、フェルメールの絵画も、野球中継も、いつもとは違う目線で見てみると、まったく違うものに見えてくる。脳をハッキングし、考え方を変えてしまうような「理系本」を、30人がご紹介。

 

6. theme理系の情念、ナンセンスマシーン

選者:土佐信道 ●明和電機
私たちは、理系の人の「お利口」な一面しか見てこなかったのかもしれない。知性と情念の化学反応が見せるマッドな世界をご覧あれ。
『Cloaca』Wim Delvoye/著
『Cloaca』
Wim Delvoye/著
ベルギーの現代美術作家が作った「ウンコを作る機械」の開発プロジェクトをまとめた本。食べ物を投入すると、さまざまな発酵プロセス(?)を経て、最後は立派なバナナ形ウンコが出てくる機械を、“クソ”真面目に作っています。Recta Publishers/品切れ。

「理系の人って、なんか論理的で、スマート」なんて思っているとしたら、大間違い。人間なら誰しもが持つ「情念」のような不可解な感情と理系脳が合体した時、「なんですか、それ?」という道具や機械が生まれます。それを明和電機は「ナンセンスマシーン」と呼んでいます。『Cloaca』は、「ウンコを作る機械」ができるまでを記録した本。「なんでそんなものを作ったの?」と全人類が突っ込まざるを得ませんが、開発スケッチから図面までもが素晴らしく、美とはどんな手段でも表現できるのだと考えさせられます。『The Big Bento Box』は、まさに「ナンセンス発明」を集めた写真本。逆に、ナンセンスマシーンから情念がなくなるといかに恐ろしくなるかがわかる『武器』もおすすめ。

こちらもオススメ
『The Big Bento Box of Unuseless  Japanese Inventions』Kenji Kawakami/著
『The Big Bento Box of Unuseless Japanese Inventions』
Kenji Kawakami/著
欧州で著名な発明家、川上賢司さんのナンセンス発明集。ヨーロッパでは有名な本。W W Norton & Co Inc/品切れ。


『武器』ダイヤグラムグループ/編
『武器』
ダイヤグラムグループ/編
古代の武器には恐ろしい顔がついていて、相手をビビらす威嚇が重要でした。近代に向かうと殺傷能力を高めるためにシンプルに……。マール社/3,000円。



profile:とさ・のぶみち/明和電機代表取締役社長。ナンセンスマシーンを開発し国内外で活動。

10. themeサイエンスの思考でアートの概念を広げる

選者:伊藤亜紗 ●美学者
アートとは何か。既存のアートの概念を広げる、科学的な思考を持つ作家やアート的思考を持つ科学者の今、そして未来を知る3冊。
『人間をお休みしてヤギになってみた結果』トーマス・トウェイツ/著
『人間をお休みしてヤギになってみた結果』
トーマス・トウェイツ/著
人間をやめて、悩みから解放されたヤギになりたい。そこで彼が考えた行動は3つ。「ヤギの思考になるため脳に刺激を与える」「四足歩行で歩くための装身具を作る」「草を食べるための胃を作る」。イグノーベル賞を受賞したドキュメンタリー。新潮文庫/940円。

美術館で展示される作品だけがアートとは限りません。アート的な発想とは、世の中のスタンダードに対して違う可能性を探り提案していく運動。中でも科学者の発想の中にあるアートは面白い。『人間をお休みしてヤギになってみた結果』は、自らの体をなげうって本気でヤギになるノンフィクション。ヤギの体の構造を分析し専門家に取材をし、4つ足で立つための器具を作ったり、4つの胃で消化するための人工胃腸を開発する。ふざけたアイデアを真面目に科学的に構築していくところが鬼気迫ります。最近注目の『バイオアート』で紹介される作品は芸術の域を超え、宗教観、生命観の議論が誘発されます。アートとサイエンス、双方の言葉を知ると作品がさらに面白くなるのでは?

こちらもオススメ
『ART SCIENCE IS. ─アートサイエンスが導く世界の変容』塚田有那/編・著
『ART SCIENCE IS. ─アートサイエンスが導く世界の変容』
塚田有那/編・著
アートとサイエンスを行き来して活動するキーパーソンの取り組みと声をまとめた本。ビー・エヌ・エヌ新社/2,000円。


『バイオアート─バイオテクノロジーは未来を救うのか。』ウィリアム・マイヤー/著
『バイオアート─バイオテクノロジーは未来を救うのか。』
ウィリアム・マイヤー/著
バイオアーティスト50名の活動を紐解き、バイオ技術によりもたらされる未来を考察。ビー・エヌ・エヌ新社/3,400円。



profile:いとう・あさ/東京工業大学准教授。専門は現代アート。著書『どもる体』(医学書院)。

17. themeすべての可能な子供たち

選者:樋口恭介 ●SF作家
テクノロジー、ロボット、人工知能……人類が生んだ「子供たち」は増えていく。彼らは一体何なのか、どこに向かうのかを考える。
『テクニウム』ケヴィン・ケリー/著
『テクニウム』
ケヴィン・ケリー/著
テクノロジーを科学技術に限らずあらゆる道具や芸術・学問をも含む概念と捉え、その裏にある原理「テクニウム」の本質を考察する。「テクノロジー対人間」という図式をひっくり返す、『WIRED』創刊編集長による集大成的な大著。みすず書房/4,500円。

テクノロジーを人間の生んだ「子供」と捉えた時、『フューチャー・オブ・マインド』は、機械とは何か? という問いから、人間の定義を考えさせます。人が機械に、機械が人に近づいた時、誰が何をもって何を人と呼ぶのでしょうか。一方『テクニウム』は、「テクノロジー=人類の産物」という常識的な親子関係ではなく「テクノロジーは人を媒介として用いることで生まれ拡張してきた自律的な生命体」だと主張します。そして『素粒子』は、人類文明の歴史と現代社会、来るべき未来を徹底的に考察した、現代文学/現代SFの最高傑作。人類という生物種が最後に残した、希望としての、あるいは絶望としてのすべての可能な子供たちを描く、未来を通して現代を俯瞰するための一冊です。

こちらもオススメ
『フューチャー・オブ・マインド』ミチオ・カク/著
『フューチャー・オブ・マインド』
ミチオ・カク/著
理論物理学者である著者が人間の「心」の謎に迫る一冊。科学的でありながらわかりやすく、想像力を刺激する「知的エンタメ」。NHK出版/2,500円。


『素粒子』ミシェル・ウエルベック/著
『素粒子』
ミシェル・ウエルベック/著
異父兄弟2人の人生を辿り、現代人の怠惰と孤独、愛の絶望を描く。その果てに生まれた、人類を揺るがす大発明とは。ちくま文庫/1,400円。



profile:ひぐち・きょうすけ/『構造素子』がハヤカワSFコンテスト大賞。翻訳家の顔も。

24. theme小さなものと科学のようなもの

選者:春日武彦 ●精神科医
科学といえば壮大なものを連想しがちだが、科学というよりは理科に近いものもある。小さな理科的好奇心から広がった“奇書”とは。
『俳句のサイズ 自然科学的視点からのアプローチ』執木龍/著
『俳句のサイズ 自然科学的視点からのアプローチ』
執木龍/著
俳人で工学博士の著者だからこそ綴ることができた、大胆かつユニークな俳句論。未来の俳句定型を模索したり、俳句17音のフラクタル理論を論じたりと、文系の代表格ともいえる俳句と理系的考察の不思議な融合。梅里書房/品切れ。

3冊とも入手困難なのは単に絶版だからでなく、古書としてのニーズが少ないジャンルだから(笑)。『俳句のサイズ』は、工学博士がこじつけ承知で俳句を考察。五七五をさらに短くする試みや、因数分解の性質と俳句を比較するなど、大真面目ゆえの滑稽さがいい。『ピラミッド・パワー』はうさんくささ満載だけど、心霊写真研究の第一人者がこちらも大真面目に論じた本。職業柄この手の怪しい本はつい買ってしまうのですが、流行の衰退とともに忘れ去られる類いのものですね。『幻想思考理科室』は自費出版らしき本。機関車が電気でなく蒸気のまま発達していたらどうなっていたかなど理科的な想像力を自由に広げた散文詩。これらの著者は、みな書いていてさぞ楽しかっただろうな。

こちらもオススメ
『ピラミッド・パワー 謎の宇宙エネルギー』中岡俊哉/著
『ピラミッド・パワー 謎の宇宙エネルギー』
中岡俊哉/著
心霊現象研究家としてテレビに引っ張りだこだった著者の新機軸。厚紙製ピラミッド模型の付録付きで、自宅でパワーを試せるお得な一冊。二見書房/品切れ。


『幻想思考理科室 森哲弥詩集』森哲弥/著
『幻想思考理科室 森哲弥詩集』
森哲弥/著
理科が好きだったが、いつしか理科から離れた男性が執筆。あとがきに「出版費用の一部を二人の息子が応援してくれた」とある。編集工房ノア/品切れ。



profile:かすが・たけひこ/産婦人科医を経て、精神科医に。臨床に関わる傍ら、執筆活動も行う。

ブルータス No. 884

危険な読書

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