珍奇植物のデザイン学。 Special Contents BRUTUS No.896
Special Contents 珍奇植物のデザイン学。
摩訶不思議な珍奇植物の形態。それは我々の目を楽しませてくれるために進化したものでは、もちろんない。これらは、過酷な環境を生き抜くための機能が隠された機能美だ。そこで、珍奇植物のデザインについて、植物の進化形態の専門家である長谷部光泰教授に話を聞いた。
Q. コーデックスやパキカウルの太った幹や根はなんのため?
Ans.乾期を乗り越える水を溜めるため。
コーデックスやパキカウルの太った幹や根は、貯水タンクのようなもの。雨期や乾期がある地域の植物にはこうした進化が見られます。乾期の葉を落として休眠している間、雨期でも晴天が続いた時に、溜めている水で生き永らえます。特に気候が過酷なところでは、根を太らすコーデックスが多い傾向があります。地上部の茎を太らせるパキカウルは、そこまで過酷ではない地域のものが多いです。地上部が残っていれば乾期でも光合成ができるので有利です。
Q. 蘭やアリストロキアの花にある、ひょろりと長い突起物は何?
Ans.ハエなどを呼び寄せるためのもの。
蘭やアリストロキアの花についているひょろっと長い突起部は、ハエ、特にキノコバエなんかを呼ぶために進化した可能性が高いといわれています。ハエはこういう長い突起に引き寄せられる性質があるのです。いかにも止まりやすい形をしていますよね。新熱帯のフラグミペディウムと旧熱帯のパフィオペディラムではそれぞれ独自に、50㎝にもなる花弁を持つ種が進化しています。
Q. サボテンやアガベ、オニソテツなどの鋭いトゲはなんのため?
Ans.大型の動物からの食害を防ぐため。
トゲはご想像の通り、基本は大型の動物からの食害を防ぐために進化したものです。しかし、サボテンの中には、トゲに朝露をまとわせ、株元に落として水を得るように進化したものもあります。トゲではありませんが、エリオスペルマムの葉の上につく突起も、朝露をまとわせて水分を得るために進化した可能性があると思います。乾燥地域では、朝露はとても貴重な水資源なのです。
Q. ベゴニアやセラジネラなどの植物はなぜ青光りする葉を持つようになった?
Ans.青い光を光合成に使っていないため。
青く輝く葉は、ほかの植物に光を遮られた暗い林床に生えているものが多いですよね。林の上の方にある植物は青い光を吸収しています。しかし、林床には、この青い光が届かないのです。そのため、林床の植物は、青以外の光を使って光合成をするように進化しました。青く見えるということは、青い光を吸収しないで反射してしまっているということなんです。
また、ベゴニアは、ほかにも暗い林床で光合成を行うための進化をしています。最近の研究では、ベゴニアの葉緑体の膜は、特有な重なり方をしており、光が入ると中で乱反射し、葉の内側に長い時間光をとどめておけるような構造になっていることがわかりました。半導体などにも使われているフォトニック結晶と呼ばれる構造に似ていますね。