現代写真の基礎知識。 Special Contents BRUTUS No.897
Special Contents 現代写真の基礎知識。
写真家・大森克己、写真評論家・タカザワケンジ、そしてアート系ブックショップ、NADiffの書籍バイヤー・館野帆乃花。水先案内人としてはこれ以上臨み得ない3人が、現代写真の礎を築いた名写真家「海外21人、国内16人」をセレクト。彼らの代表的な作品とともに紹介します。WEBでは、全37人のなかから5人をピックアップ!
Robert Frankロバート・フランク
1950年代のホットなアメリカをクールに描いた旅する写真家。
パリ、ロンドン、アメリカ、ペルー、旅を重ね写真を残す/ローライ、ライカで初期のキャリアを築く/一枚の写真ではなく写真の集合で世界を表現/ビートの作家たちと映画を製作/元村和彦編集の写真集『THE LINES OF MY HAND』(1972年)をきっかけに写真に復帰/プライベートな写真を含めて構成する写真集の作り方が斬新。
『THE AMERICANS』(1958年)。1950年代半ば、アメリカという新しい文明をテーマに全国を取材した写真集。キャプションに頼らずビジュアルだけで物語ろうとした画期的な写真集。星条旗とジュークボックスが繰り返し現れるなど音楽を連想させる構成が特徴的だ。
Henri Cartier-Bressonアンリ・カルティエ=ブレッソン
カメラで世界をスケッチしたスナップショットの達人。
「決定的瞬間」がキャッチフレーズ/ライカの達人/絵画で磨いた構図のセンスが生きる/顔ばれを嫌い撮られることを極力避けた/写真を始めて2年でニューヨークで個展/戦争中に死亡説が流れるがMoMAの個展に颯爽と現れる/黒枠はノートリミングの証拠/ロバート・キャパらとマグナムを設立/晩年はドローイングに専念。
『The decisive moment』(1952年)。キャリア前半の傑作集。タイトルは英語版。今橋映子氏によれば原著である仏語では「かすめ取られた映像」。写真左ページ、通行人が水たまりを飛び越す瞬間を捉えた「サン=ラザール駅裏」こそ、ブレッソンスナップの真骨頂。
Jonas Mekasジョナス・メカス
日記映画の中の出会いをスチルに切り出した映画作家。
プライベートな日常を淡々と綴った日記映画の巨匠/ニュー・アメリカン・シネマの庇護者/フィルム・アメリカン・コーポラティブ呼びかけ人/16ミリ映画のフィルムから切り出した「写真」をプリント/作家自身は「フローズン・フィルム・フレームズ」と呼んだコマ撮りをしていたから可能になった「写真と映画のあいだ」。
『JUST LIKE A SHADOW』(2000年)。16ミリ映画から選んだ数コマをプリント。著名人のカットを抜き出してアーカイブの活動資金にするつもりだったが、メカス自身がこの形式に魅力を感じて本格的に取り組む。静止していながら動きを感じる不思議なイメージ。
植田正治Shoji Ueda
80年代に再発見された鳥取砂丘の達人。
スタジオは砂丘、モデルは家族や知人/名言に「砂丘は巨大なホリゾント」/キャッチフレーズは「ローカルカラー」/地方在住の強みを生かした芸術写真を実践/生涯を鳥取で過ごした/愛用していたペンタックス645の漆塗りが植田モデルに。
『砂丘』(1986年)。ドイツのシュルレアリスト、マックス・エルンストの作品を模したシルクハットや砂丘に上がる花火など、写真家独特のユーモアと美的センスが光る。砂丘を渡る風音さえ消える静謐(せいひつ)な世界観は「植田調(UEDA−CHO)」の真髄。
HIROMIXヒロミックス
90年代を駆け抜け、SNS時代を先取り。
高校3年の夏に撮った写真で写真新世紀グランプリを受賞/90年代ガーリー・フォト・ブームの火つけ役/音楽雑誌やファッション誌で活躍/愛機はコニカビッグミニ/ソフィア・コッポラ監督『ロスト・イン・トランスレーション』に本人役で出演。
『girls blue』(1996年)。第1写真集。撮りためた約3万枚の中から作家自身が選んでいる。その場と時間を共有した若者たちの瞬間がまばゆいばかりの輝きを放っている。写真を媒介としたコミュニケーションの楽しさはSNS時代を先取りしている。