From Editors No. 794 フロム エディターズ
From Editors 1
波を見ながら、写真について想う。
NEW WAVES 2015。
ホンマタカシさんの作品『NEW WAVES』を初めて観た時〈「relax」の75.5号(2003年発刊)〉の印象は、写真に対して云々というより、ハワイの波だけで一冊の雑誌を構成してしまう、その思い切りというか自由さというかおおらかな編集術に「まいった!」というものだった。
その後、さまざまな場所での展示や写真集などで、『NEW WAVES』を観てきた。ドラマチックでも、特別でもない波。美しくブレイクしていない波は、サーフィンをしている自分にとっては、あまり惹かれる波の写真ではないな、という思いが心の片隅にいつもあった。(ホンマさんに正直に話したら「サーファーはみんなそう言うんだよ 笑」と鷹揚な対応だった)。
今回の特集を作るとき、ホンマさんにひとつお願いしたことがあった。写真がもっと身近なものとなるような、額にきちんといれなくても、思い立った場所にさらっと画鋲やテープで貼れる、ざらっとした、親近感のある紙を使ったポスターを作りたい、と。
2015年1月2日から3泊5日、ホンマさんとともにハワイ・ノースショアへと向かった。ポスターのテーマは、NEW WAVES 2015。
毎朝6時からと毎夕。4×5のカメラをかついで、ホンマさんは波と対峙する。想像していたよりも、和やかな雰囲気のなか、たんたんと撮影は続く。狙ってはいない、でも選んでシャッターを切るホンマさん。
サーフィンをする人間として波の写真を観る、それもひとつの写真との付き合い方だ。でも、その枠組をとっぱらってみると、また違った波の写真の味わいが見えてくる。ホンマさんは、けっして言葉では説明しない。でも写真と向き合っているうちに、その意味がわかってくる。
雑誌でおもしろい写真を撮っている人たちと作りたい。「特集を一緒に作りませんか?」というお願いにホンマさんはこのテーマを掲げた。それに対して、僕は「意図は?」「それは誰が必要としているの?」ということをはじめとする、質問や疑問や提案をホンマさんにぶつけ続けた。しつこいくらいのやりとりは、まどろっこしかったのだろう、ときにホンマさんを本気で怒らせたものだ。
写真を観れば観るほど、取材を重ねれば重ねるほど、原稿ができて入稿するページが増えれば増えるほど、ホンマさんが伝えようとしていること、写真についての考え方や付き合い方が、カタチとなって見えてくる。
できあがった特別付録のポスター4枚(裏表あるので、豪華8枚分)と特集を眺めている。写真のことがいままでよりさらに身近なものになった。「まいった!」というのが、正直な気持ちだ。くやしいからホンマさんには絶対、直接言うものか、とは思っている。でも、これだけは伝えたいと思う。また、写真の特集、一緒に作りましょう! と。
From Editors 2
昔の写真が持つ熱気に
あてられ続けた数日間。
出社。編集部員の所在や帰社時刻を伝えるホワイトボードの私の欄に「資料室」とだけ書き込み、階下にあるその部屋へ。観る、観る、観る、コーヒー、観る、観る、観る、トイレ、観る、観る、観る、観る、観る……気がつけば、夜。数日間続いた、私の仕事パターンです。
1945年、凡人社の名称で創立されたマガジンハウスは「an・an」「BRUTUS」「POPEYE」「Olive」「GINZA」「relax」など、数々の雑誌を世に送り出してきました。雑誌の写真を取り扱う今号のブックインブックでは、1970年代以降に刊行されたマガジンハウスの雑誌の写真を振り返ります。写真家たちが当時の光景と空気感を切り取り、時代をリードした写真を改めて観返しました。私が資料室でひたすら続けた「観る」は、1970年以降のバックナンバーのことだったのです。ただ、観るべき冊数は膨大です。BRUTUSで793冊、POPEYEなら814冊、an・anに至っては1,940冊……。そのすべてに目を通しました。
まず着手したのはan・an。気になるページに付箋をつけていったのですが、1冊目の合本を観終えて愕然とします。合本には何十もの付箋が並び、はたして“印”として機能しているのか分かり兼ねる状態。さらに、時計に目を遣ると、1時間半も過ぎているではありませんか。スピードアップしようと意気込みながら2冊目のページをめくるのですが、結果は同じ。どうにも“強い写真”が多いのです。篠山紀信さん、沢渡朔さん、立木義浩さん、森山大道さん、十文字美信さん……といった今では写真界の重鎮となっている方々の挑戦心溢れる作品が、私の目を、手を、止めてしまうのです。
「今の若い人ってYouTubeでリサーチした昔の音源を『新しい!』って聞くじゃない。雑誌の写真も同じ。古くても、自分の知らないことは新しいことだよね」とは、ホンマタカシさんの言葉。私にとって、資料室に並ぶ30年も40年も前のバックナンバーは、強烈な表現を伴った“新刊”でした。