From Editors No. 813 フロム エディターズ
From Editors 1
いいおやつとの出会いを。
本や音楽、コーヒーやお茶と同じように、なにげない日常に句読点を打ち、ふとちがう心持ちにしてくれる、おやつにはそんな効能があると気がつきました。 そして、あの街にあのおやつがあると知ると、また訪ねる理由が増えるというものです。おやつ、いろんな意味で最高!
今日もよい一日を。
鎌倉のベイクショップ〈Pompon Cakes BLVD.〉にはじめて行った時、オーナーの立道嶺央さんの大きく清々しい声に驚いた。買い物を終えた客や、お茶の時間を楽しんだ客が帰るときに「今日もよい一日を!」と声をかけるそうだ。海外の店では当たり前のやりとりだけれど、日本で続けている場所はなかなかないだろう。最初は驚いたが、実に気分がいい。絶品のレモンケーキといい、なんだかこの近くで暮らしてみたくなる。
おやつの店。
国立の〈foodmood〉は料理家・なかしましほさんの店。バターのかわりに菜種油をつかったシフォンケーキ、名物のアースケーキが実にうまい。せっかくだからとついつい食べ過ぎた。店内を眺めていると、小さな子供を連れた家族も多く、説明書きを読むとたしかに「ごはんのようなおやつの店」とある。ごはんのように毎日でも食べたいやさしい味。
プリン・ア・ラ・モード。
横浜の歴史あるホテル〈ホテルニューグランド〉。1927年に開業したここはプリン・ア・ラ・モード発祥の地でもある。戦後すぐ、アメリカの婦人たちを招いた食事会で、デザートとしてアイスクリーム、プリン、フルーツを盛りつけたのが始まりで、いわば「即興」でつくったメニューが全国的に広まったらしい。当時と同じ方法でということで、フルーツはいまも缶詰を用いている。即興がみんなの定番になったなんて、なんとも最髙じゃないか。
From Editors 2
バラチラシ寿司、のようなもの。
マダムで賑わう昼下がりの銀座・和光ティーサロン。仕事だと自分に言い聞かせながら、恥ずかしさを押し殺して注文したのはチョコレートパフェ。口にしたときに、思わずのけぞった。美味い。目からウロコ。食わず嫌いとはこのことだ。「男がパフェなんて…」と言いながら避けてきた。思い返せば、口にするのは小学生のとき以来ではないだろうか。
ネタの大小、温度、密度、歯ごたえ、のどごし、そして味のレイヤー。器の形から、具材の隙間まで、緻密に計算され尽くされた、奥深いスイーツなのだ。例えるならば、バラチラシのような食べ物である。お店ごとにバラエティに富んでいて、フルーツパフェなら旬も楽しめる。何よりも宝探しのように掘り進める楽しさ。そこにはパティシエ(料理人)のアイデア、経験、技が詰め込まれている。モジモジと注文していた自分などすっかり忘れ、ペロリと完食してしまった。
タカノフルーツパーラー(新宿ほか)、フルーツパーラーフクナガ(四谷三丁目)、カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ(鎌倉)など、掲載はできなかった絶品パフェの店は他にもたくさんあるけど、どの店でも男性の一人客がパフェを食べている姿が印象的だった。いまでは自分自身も、行く先々のお店のメニューにパフェを探しています。読者のみなさんにも、パフェおじさんの仲間入りをして欲しいと願っています。