大人になってはじめて気づく伝統建築の素晴らしさ。 From Editors No.862
From EditorsNo.862 フロム エディターズ
大人になってはじめて気づく
伝統建築の素晴らしさ。
銀閣で有名な慈照寺には、東求堂というもうひとつの名建築がある。通常、内部は公開していないが、秋の特別拝観の時期に重なったため取材撮影の許可が降りた。朝7時前。11月ともなると京都の朝は寒い。足に来る寒さだ。その寒さを吹き飛ばすような熱量で、東求堂の魅力を語る建築家の佐藤光彦さん。曰く「東求堂は日本の伝統建築ベスト3に入れてもいいと思っています」。和室の原形とも言われ、違棚、開けた障子から絵画のように目に入る庭の紅葉、狭さを感じさせない壁の工夫や建具の意匠など、小堂に詰まった国宝の見どころを、早朝、誰もいない環境、プロのガイドつきで堪能できたのは何よりの経験だった。中の撮影が終わり、8時半を過ぎると、続々と修学旅行生や団体客が入場してくる。「うちは他所さんより30分早く開けるので、修学旅行や観光コースの一番最初になっているんです」とは庶務課のご担当。ドッと押しよせる修学旅行の学生の列が、外観の撮影を残した我々の横を足早に通りすぎて行く。足を止め、建物や風景を熱心に見ているのはごく一部の学生。そんな姿を若き自分に重ね微笑ましい気分になるのだった。自分の中学の修学旅行は中尊寺金色堂、高校は厳島神社。建物の記憶は、ほぼない。確かに、マジメに見てなかったよな、と。大人になって初めてわかるそのすごさ、美しさ。あそこ、昔行ったことあるからな、と言うなかれ。古建築は、大人になっての訪問こそ面白い。この特集を読んでおけば、さらにその見方が変わるはず。
●︎︎︎星野徹(本誌担当編集)