3つの茶碗は孤高のアイドルのよう。 From Editors No.891
From EditorsNo.891 フロム エディターズ
3つの茶碗は孤高のアイドルのよう。
「3碗の曜変天目の同時展示は奇跡のような出来事である」。特集の構成をした橋本麻理さんのお話を聞くうちに、ミステリアスな生い立ちの3つの茶碗が伝説のアイドルであるような錯覚を覚えた。煌めく衣装。3人のフィンガースナップで始まる名曲のイントロが聴こえてくる。「♪君だけに ただ君だけにめぐり逢うために 僕はさびしさとともに生まれたよ」。3碗は同じ場所で見られるわけではない。同時期に日本各地の3つの美術館で開催される美術展に、それぞれが出展される。育った環境が違う3碗同士は、なかなかめぐり逢えないのだ。「♪君を見つめると僕の胸の中は 星が渦を巻く銀河に変わるよ」。曜変独特の光彩と斑文は、宇宙にたとえられる。3様の美しい銀河は人々に語り継がれ、国宝となり相応のオーラを身につけた。いつか3碗が同じステージに集結する日は来るのだろうか。未来に想いを馳せながら、3つの孤高のアイドルをこの機会にそれぞれ確かめに行きたい。
●神谷幸世(本誌担当編集)