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人が街を作り、街が魅力的な人材を生み出す。 From Editors No.940

From EditorsNo.940 フロム エディターズ

人が街を作り、街が魅力的な人材を生み出す。

この特集で注目したのは、ニュージェネレーションが躍動する、新しい京都。例えば、巻頭で取材した〈日本料理 研野〉。店主の酒井研野さんは日本料理の名店〈菊乃井〉、京中華の名店〈京静華〉で修行。その後、NYの高級寿司店や〈LURRA°〉を手伝った後に独立という華々しいキャリアを重ねた31歳。カウンター席のみで目の前が板場ということもあり、メインカットの内観撮影用に包丁を持って立ってもらった。すると、まな板に並べたのは、まさかのイチゴ! 普通の料理人であれば、刺身を引いたりするのがセオリーだが、彼はあえてのストロベリーである。そこに京都のいまを感じた。『菓子屋のな』では、老舗で修行した名主川千恵さんが作る和菓子が衝撃だった。いろんなお酒とペアリングして楽しむというプレゼンテーションや、ストーリー性のあるメニュー名はもちろんのこと、素材を聞いてまた驚いた。イチジクと赤ワインを使った羊羹や、カカオやエディブルフラワーを使った生菓子など、これまでの和菓子(特に生菓子)の常識ではあり得なかったイノベーティブな発想力!! 紹介した2人に限らず、修行先から独立した若き店主が少なくない。そのうちの何人かは「いま店を持つのは確かに大変ですけど、これ以上、悪くなることはないですからね」と、実に軽やかに言ってのけた。

喫茶店や銭湯、居酒屋のような場所に行けば、地元の老人と若者が気軽に話している姿が微笑ましい。街の社交場が東京より多いように思う。若者が夢中になって話すことに老人は耳を傾け、生きていくうえで大切なことを若人は先輩から学ぶ。伝統と格式も大事。でも、新しもん好きの京都人たちは、冒険を厭わない。本当に驚くべきは、新旧良い塩梅のリミックス力と、多様性を認める街の包容力なのかもしれない。悠久の都が華やかであり続ける理由が少し見えたような気がした。

●鮎川隆史(本誌担当編集)
BRUTUS 940号:From Editors
京都入りして1発目の取材は、〈京都水族館〉のオオサンショウウオ。撮影は、普段から『&Premium』や『Hanako』などの仕事が多い、わたなべよしこさん。誌面では躍動感あふれる個体と、折り重なる脱力感たっぷりのオオサンショウオたちの、これ以上ない瞬間を切り取ってくれた。別水槽にいたのは、鴨川で捕獲されたという希少な在来種。この撮影がなかなか難しい。「おいしいチョコチップクッキーだと思って撮ってください」と励ましてみたものの、逆に混乱させたらしく、誰も正解が見えないまま現場を後にした。。。


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