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平凡と歌謡曲 Special Contents BRUTUS No.864

Special Contents 平凡と歌謡曲

“あの頃”の平凡的ヒット歌謡を、音楽評論家のスージー鈴木さんがピックアップ! あんな曲、こんな曲、ありました。

1980-81年の平凡的ヒット歌謡

「セーラー服と機関銃」
薬師丸ひろ子
「セーラー服と機関銃」薬師丸ひろ子
©ユニバーサル ミュージック
発売/1981年11月21日
売上枚数/86.5万枚
作詞/来生えつこ、
作曲/来生たかお、
編曲/星勝


あさっての方向から出てきた、
あの歌姫のデビュー曲。
自らが主演した角川映画『セーラー服と機関銃』の主題歌として大ヒット。当時、松田聖子を中心としたアイドル戦国絵巻から距離を置いた、あさっての方向から、天使が急に舞い降りた感じがしたものだ。その声質もまさに「天使の歌声」。ただし後に、大瀧詠一作曲「探偵物語」(1983年)、呉田軽穂(松任谷由実)作曲「Woman“Wの悲劇”より」(84年)という、80年代を代表する歴史的な名曲・名唱を残すことを考えると、この曲では、まだ硬さが残ったぎこちない歌声で、逆に、そのぎこちなさが奏功して大ヒットにつながったと見る。朝ドラ『あまちゃん』の、鈴鹿ひろ美役での名唱は、記憶に新しいところ。
「大きな森の小さなお家」
河合奈保子
「大きな森の小さなお家」河合奈保子”
発売/1980年6月1日
売上枚数/7.6万枚
作詞/三浦徳子、
作曲・編曲/馬飼野康二


河合奈保子の音楽性を活かした
良質なポップス。
芸映プロ主催の「西城秀樹の妹オーディション」に優勝してデビューした河合奈保子のデビュー曲。売りは、純真で天真爛漫なキャラクターと豊満なボディとのギャップ。ピアノや作曲をこなすほど音楽性は確かで、この曲も、可愛い歌い方だが、音程は安定的で、良質なポップスとなっている。また馬飼野康二によるメロディも的確で、サビの「♪鍵をあげるわ 真心の鍵」のところは、一度聴いたら忘れられない。ちなみに馬飼野は、70歳にして、いまだジャニーズ関連楽曲をバリバリとこなす現役の作曲・編曲家で、私は自著で「歌謡界の山本昌」と評したが、近いうちに「歌謡界の森繁久彌」と言い換えなければいけないかも。


1982-83年の平凡的ヒット歌謡

「待つわ」
あみん
「待つわ」あみん
発売/1982年7月21日
売上枚数/109.0万枚
作詞・作曲/岡村孝子、
編曲/萩田光雄


キモ可愛い2人組による、
年間1位の特大ヒット。
何といっても100万枚超え、1982年のオリコン年間ランキング1位である。若い人には、ヤマハのポプコン出身だ、と言ってもわからないだろう。ポプコンとは『ポピュラーソングコンテスト』だ、と言ってもわからないだろう。ツイストや円広志やクリスタルキングを輩出したコンテストだ、と言ってもわからないだろうから、何とも説明が難しい、名古屋の女子大生2人組。2人とも、ほとんど棒立ちで、奇妙なハーモニーを取って歌う姿が、キモ可愛くて話題を呼んだ。この大ヒットを残しながら、翌83年には、さっさと活動休止し、ファンを驚かせる。2人のうちの1人は、のちに岡村孝子として、ソロでヒットを飛ばす。
「SUMMER SUSPICION」
杉山清貴&オメガトライブ
「SUMMER SUSPICION」杉山清貴&オメガトライブ
発売/1983年4月21日
売上枚数/27.1万枚
作詞/康珍化、
作曲・編曲/林哲司


都会的でカラカラに乾いた
「シティポップ」の先駆け。
稲垣潤一「ドラマティック・レイン」(1982年。作詞家・秋元康の出世作)と並んで、いわゆる「シティポップ」の先駆けとなった曲。「シティポップ」とは、当時から流行りだした都会的で乾いたポップスのことで、この曲も、杉山清貴のボーカルといい、康珍化(かんちんふぁ)の歌詞といい、洒落たアレンジといい、もうカラカラに乾いていて、湿度は10%を切って火の元に注意という感じ。その方向性が時代のニーズと合致。彼らは2年後に「ふたりの夏物語」というキャリア最大のヒットを飛ばす(36.8万枚)。当時の高校生は、この曲で「トライブ」(Tribe)と「サスピション」(Suspicion)という単語を覚えた。


1984年の平凡的ヒット歌謡

「モニカ」
吉川晃司
「モニカ」吉川晃司
発売/1984年2月1日
売上枚数/33.9万枚
作詞/三浦徳子、
作曲/NOBODY、
編曲/大村雅朗


広島の悪ガキに主役を張らせた
ナベプロの大勝負。
1984年は西日本の悪ガキたちが歌謡シーンに殴り込みをかけた年。福岡出身のチェッカーズと、もう一人が広島からの刺客=吉川晃司。人気スターの離脱で苦境に陥っていた渡辺プロダクション(ナベプロ)が、なけなしの3億円を投じて、吉川晃司のデビューに向けた大プロモーションを展開。プロモーションの核は、吉川の主演映画『すかんぴんウォーク』の製作。無名新人にいきなり主役を担わせるという無謀な試みだったが、一応の成功を見た。音的には、当時の最新鋭だった佐野元春サウンドの影響をもろに受けている。こうして吉田拓郎、西城秀樹、矢沢永吉に続いて「広島出身・長身ボーカル」の系譜が継がれていった。
「星空のディスタンス」
ALFEE
「星空のディスタンス」ALFEE
発売/1984年1月21日
売上枚数/52.4万枚
作詞/高見沢俊彦・高橋研、
作曲/高見沢俊彦、
編曲/ALFEE


「バンド界の森繁久彌」は
「日本のクイーン」だった。
日本を代表する超長寿バンド、「バンド界の森繁久彌」=アルフィーの大ヒット。長い不遇の時期を経て、前年の「メリーアン」が37.3万枚、そしてこの曲が50万枚超えと、一段飛ばしで階段を駆け上がるように人気を集め、現在に至るまで高値安定の人気を得ながら活動を続けている。ハードなギターの上に分厚いコーラスが乗る、聴くだけでお腹いっぱいになるような音の構造は、クイーンに似ている。実はクイーンの人気は、世界に先駆けて、まず日本で爆発したのだが、それくらい日本人は、こういう、あれこれ詰め込まれた音が大好きで、そのへんを冷静に計算してヒットを生んだ、高見沢俊彦という人の才覚を感じる一曲である。


ブルータス No. 864

平凡ブルータス

680円 — 2018.02.15
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ブルータス No. 864 —『平凡ブルータス』

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