From Editors No. 818 フロム エディターズ
From Editors 1
森山大道、なぜ、いまなのか?
なぜ、いまさらなのか?
たとえば、写真集『ハワイ』(月曜社)の中の、雨上がりの道路を、サーフボードを持った少女が横切る写真。たとえば、『昼の学校 夜の学校+』(平凡社ライブラリー)の中の「暑い夏の炎天下、街が真っ白に見えて、まつ毛の汗で風景がにじみます。そんなクラクラするときに写真を撮るのがぼくは一番好きです」という言葉。
粗い粒子、強いコントラスト、ブラックとグレーのくっきりとした濃淡。全作品を通してみると、ギラッと、ソリッドで、どこか近寄りがたい印象さえもある森山大道の作品群、なのだけれど。
先にあげたように、僕自身で言えば、森山さんの写真を見る、言葉を聞いていると、どうも胸がジーンと熱くなるんです。
写真集、著書、作品は追いかけてきたけれど、はじめて森山さんに会ったのは、2012年。遅い夏休みを使って、ロンドン・テート・モダンに〈William Klein + Daido Moriyama〉を観に行った時のこと。友人と展覧会を観て、食事をしてホテルへと帰る道で、ふっと上を見上げたら、あるビルの2階の中華料理屋で食事をしている森山さんを見かけた。おもわず手をふったら(その時点では面識もない)、わざわざ降りてきてくれて、言葉を交わし、一緒に記念写真を撮ってもらえたのだ、なんと気さくな。
その後、何度か取材をさせていただいた。写真というメディアについて、写真の撮り方や心構えを訊く僕らに対して、森山さんは常に真摯で、カッコつけることなく、難しくない、でも艶っぽい言葉で答えてくれた。
森山大道は、50年以上、写真界のトップを走り続けている写真家だ。“森山大道”で写真特集を作ることは、これまでいつでもできただろうし、これからもきっとできるだろう。いつでもいい、だから、いまなんです、僕が作りたかったんです。
もちろん、パリのカルティエ現代美術財団はじめ、中国、アフリカ、ヨーロッパそして日本各地で、継続される展覧会やブームを総括する絶好のタイミングではあったわけですが。
この人のことを、この人の作品を、もっと知りたい、もっとみんなに知って欲しい。編集者としての根源的な欲望であり、使命を一冊に詰められたのではないかと思っています。
From Editors 2
森山さんのこと、みんな大好きなんです。
森山大道の作品は、ほかのスナップ写真とどう違うのか、なぜ強いのかについて、写真家の大森克己さんに分析解説していただく企画を担当しました。打合せを経て取材があったのは、昨年末のこと。森山さんの写真集『仲治への旅』(1987)を携えて編集部に現れた大森さん、掲載された写真についてたっぷり2時間、語る語る。しかし、年明けのある日、連絡をいただきました。「じつは、まだ語りたいことがあったので、追加取材しましょう!」。『仲治への旅』は、雑誌『写真時代』の連載を中心に構成された写真集。大森さんは正月休みの間に、今では手に入りにくい『写真時代』を持っていたご友人からドサッと借りて編集部に再び現れ、写真集と雑誌での掲載の仕方の違いなどについて、更に語ってくださったのです。後日、記事の校正を読んだ森山さんが「大森さんは、良く見てくれてるね」と喜んでいらした、と大森さんに伝えると、「尊敬する先輩の作品についてだから、いい加減にはできないし、ちゃんとしたいから」と。
今号では、ほかに、上田義彦さんや石川直樹さんなど、国内外の7人の写真家が森山大道へのオマージュとして作品を提示し、森山さん本人や、森山作品との出会いなどについて思い思いに語った企画も。みなさん、森山さんのことを尊敬し、大好きなんだ、という気持ちが溢れたページになっています。誤解を恐れずに言えば、表現者として、それぞれのフィールドで闘っているアーティストの世界では、同業者からこんなに愛される作家は、極めて珍しいのではないかと思います。改めて、森山さんの人となりと作品に感じ入るできごとでした。
みなさんの、熱い想いを、ぜひ本誌でご覧下さい。