あなたには、忘れられない旅はいくつありますか。 From Editors No.923
From EditorsNo.923 フロム エディターズ
あなたには、忘れられない旅はいくつありますか。
「風の歌を聴け」の文庫本をカバンに入れて、朝一番の高速バスに乗って京都に向かう。
自分で行き先を決める、初めてのひとり旅は高校生のとき。大学受験を意識し始めた2年生のときだったか。
哲学の道から八坂神社まで歩き、さらにずんずんと清水寺へ。観光客が行き交う中、ベンチに座り込んで読書をする。そこから京都タワーを目指して、ふたたび歩きだし、最終便で名古屋へ。半日ほどのショートトリップ。何を思い、考えていたかはまったくもって覚えてないけれど、高校2年生なりの、悶々とモワーっとした日々、そこから解放され、淀んだ世界が再びキラキラと輝き出す、そんな気分になったことだけは覚えている。
その後、世界中、日本中を旅をしたけれど、あの小さな一歩は、おとなになってからの旅と比べても、とても特別なものだ。
たとえ身近な場所であっても、旅をしようと思い立ち、準備をする、そして歩く、そこには、一生忘れられないほどの体験が待っている。
不自由な日々が続く中でも、私たちは旅を忘れない。旅もまた、私たちを忘れない。
●杉江宣洋(本誌担当編集)