“あたりまえ”が変わってしまう今だから。 From Editors No.930
From EditorsNo.930 フロム エディターズ
“あたりまえ”が変わってしまう今だから。
万葉集には、星のことを詠んだ歌がほとんどないのだそうです。この話を聞いたのは、11月に行われたZOOM歌会。過去の名歌を一首選んで「2020年の今」の状況を踏まえて返歌を作るという特集企画で、歌人の東直子さん、山田航さん、山階基さんにご参加いただきました。柿本人麻呂の「天の海に雲の波立ち月の船星の林に漕ぎ隠る見ゆ」という歌を選んだ山田さんの解説によると、当時夜空の星は死者の魂だと考えられていたため、縁起の悪い、忌むべきものとして捉えられることが多かったのだとか。万葉集の成立とされている奈良時代末期から1000年以上が経った現代に暮らす私は、死のことなんて考えずに星を見上げます。2020年、本当に色々なことがありました。世の中のあたりまえは、1000年も待たなくても、数か月、数日、数時間でがらっと変わってしまうと実感した年でした。スマートフォンも、テレビも、めまぐるしく昨日とは違う情報を表示します。そんな今だからこそ、私たちが道標にすべきは、ずっと変わらずそこにある1冊の本なのではないでしょうか。明日世の中がどうなっているかはわからないけれど、あわてずに、錨を下ろすように本を開いてゆきたい。編集を終えた今、あらためて強く思います。
●鴨志田早紀(本誌担当編集)