From Editors No. 791 フロム エディターズ
From Editors 1
荒野の7人が
新橋に現れた!?
映画特集を始めるにあたり、決めたことがあった。有名人がたくさん登場する華やかな映画特集にならなくてもいい。とにかく映画を溺愛している人たちに話を聞きに行こうと。前回、小津安二郎の特集を作ってから約1年。まずはその時にお世話になった、東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員の岡田秀則さんを訪ねた。当然、展覧会を企画・運営する方なので、知識や人脈で右に出る人間はいないはず。話し始めて数分もしないうちに、「科学教育映画マニアとかオシャレですよ。学校の授業で見せられますよね、植物が発芽する過程を早回しで再生するようなアレですよ。フランスのジャン・パンルヴェの作品なんかオススメです」と、こんな感じなのだ。いきなり、なんのこっちゃだが、映画人はとにかく熱い。
ところが、その岡田さんも舌を巻いたという相手がいるという。それは、西部劇をこよなく愛する〈ウエスタン・ユニオン〉のメンバー。話によると、40〜80代の愛好家が定期的に集うサークルで、「人生をウエスタンに捧げているその様に感動すら覚える」と岡田さんは言う。早速、取材を申し込んだ。
土曜日の新橋駅前ビルに現れたカウボーイたちは、『荒野の7人』とまではいかないが、本当にカッコ良かった(p86-87)。撮影中もちょっとした人だかりである。ワゴンマスター(リーダー)の原川順男さんは何度も映画ロケ地を検証してまわって、著書『アリゾナ、ユタ 西部劇の大地を往く』(市田印刷)にまとめた元・サラリーマン。76歳の武靖之さんは、昭和22年(当時小学4年生)から西部劇のパンフレットを集め続け、あの『開運! なんでも鑑定団』でも注目されたという。他にも、拳銃の早打ちパフォーマーや主婦、映画ライターなど、年齢も職業もバラバラなメンバーが集まって、2時間近く西部劇について熱く、熱く、少年のような目で語ってくれた。颯爽と現れ、熱く語り、用事が済んだとなると言葉少なに立ち去るその姿は、西部劇で見かけるカウボーイさながら。“人生をウエスタンに捧げる”という言葉が、決して大げさではないことを、改めて思い知った。最後に、原川さんが会員向けの記念誌に寄せた西部劇川柳をここに紹介したい。
「大西部 もういいでしょと 妻吠える」
取材旅行中の一句だろうか。その場の状況はともかく、西部劇にかける情熱がひしひしと伝わってきませんか?
(追伸)語ってくれたことの数%しか載せられなかったことを、特集に登場いただいたすべての方々に深くお詫びします。
From Editors 2
映画の見方に正解はない。
ただただ自由に
語り合うという醍醐味。
今回は“楽”な取材でした。
取材相手のみなさんが、なにしろ映画好きなもので。こちらが聞き出そうとしなくても、勝手にずっと語っていただけるような感じ。
映画の見方に正しいも正しくないもない。自分が好きな映画について、誰にも邪魔されずに好きなように、好きな者同士で語り合う。そんな趣旨で行われた今回の特集。こちらもついていけないようなところまで、話がマニアックに極まることも多かったものの、それがなぜか面白くて。いちばんの理由は、語る彼ら自身が心底楽しんでいたからのように思います。
特集でも紹介しましたが、月一度開催、ロバート・ハリスさん、在本彌生さんら映画好きたちが語らう「アレ★アレ★シネマトーク」というイベントがあります。今回のトークテーマは「リトマス試験紙的映画」。すなわち、この映画を好きな人とは文句無しに友達になれる、この映画を貶す人のことは好きになれないといった、“人を測る”映画について。ハリスさんは共通の映画の好みがきっかけで、奥様との結婚にまでいたったというエピソードも披露。話はおおいに盛り上がり、「わかるわかる」もあれば「???」なこともありますが、映画ひとつで人はつながることもできるということを再確認した次第です。
ページに限りがあるために、それぞれが何時間も語り合った内容のごく一部しか紹介できないのは残念ですが、それでも映画を語る楽しさの詰まった特集になったのではないかと。読めば誰かと映画を観たくなる、はずです。