From Editors No. 822 フロム エディターズ
From Editors 1
日常の中に旅がある、
そんな男で私はいたい。
人に会うとよく「しょっちゅう旅してますね」と言われます。出張が多いというのもありますが、それ以上に、少し時間が空いたら近場でもどこかにふらっと出かけてしまう、そういう印象が強いのかもしれません。大型休暇にドカンと海外に行くことはそれはそれでもちろん好きですが、計画やら金策やらそこそこ大変ですし、最近はそれよりも、大事なうつわを割っちゃったから新しいの買いに行きたいなとか、知らない町でひとりしっぽり呑みたいなとか、ひなたぼっこしたいなとか、そんな理由で国内へ軽めの旅に出かけます。
今回の特集は、そういった日常での些細なつぶやきから旅に出よう、という気持ちを大切にしてつくりました。何かしたいなあと思った時、いくつかの目的地が頭に浮かび、その中からひとつを選ぶ、というその心の動きをページに落とし込めればと。そして今回、いくつかの旅先を選び取材しましたが、行き先は必ずしも「有名観光地」ばかりではありません。例えば甑島。鹿児島には奄美大島、屋久島、与論島…と有名な島がいくつもあり、甑島はその中で人気上位というわけでは正直ない。けれど私がなぜ行きたがったかというと、この島には「ゴッタン」という楽器があり、3月の「島立ち」の時期にはその音色で島が包まれる、という話をその昔どこかで耳にしたから。それだけの情報を元にエイヤと旅に出たのですが、結果いろいろな人々と出会い、この島にしかない景色を見て、“何もない“と言われる島にたくさんの想い出ができたのでした。
多くを得ようとしたり、多くを感じようとするほど、旅はおおげさになると思います。日々の延長の中に旅はあり、ふと思い立ったらとりあえず旅に出てみる。日常と旅との距離を縮め、すぐそこにある旅に浸れるようになれば、きっと毎日も楽しいはずです。
From Editors 2
準備よりもまず出発。
旅は思い立ったが吉日です。
旅の目的や予定は事前にたくさん詰め込みたい派です。着いたらこれをして、食事はここであれを食べて、それは日を改めて買いに行って……などと盛り込んでいくと、とてもじゃないけれど週末だけではまわりきれないスケジュールができあがります。ならばいつか長期休暇で……と思っていると、うまくタイミングが合わなかったり、旅へのパッションが消え失せてしまったり。“いつか”は永遠にやってこないのです。
旅に関して貧乏性な私が、取材で日本各地さまざまな場所に出かけたのですが、そのひとつに兵庫県豊岡市の城崎温泉がありました。コウノトリ但馬空港からクルマで25分ほどの温泉街には7つの外湯があり、夕暮れ時になると浴衣に下駄という、この町の“正装”に身を包んだ観光客が町をそぞろ歩きます。昔ながらの温泉街といった雰囲気を色濃く残しつつも、2014年にオープンした〈城崎国際アートセンター〉には第一線で活躍するアーティストが世界各国から集まるハイブリッドな町です。
旅程は2泊3日。町のキーパーソンたちへのインタビューをしたのですが、仕事の合間にスタッフでふらりふらりと町歩き。「ここに行く!」という目的地がないから、移動中の景色をゆったりと楽しめ、小さな発見が続きます。特に城崎は町歩きには丁度いいサイズ。飽きることはありません。ローカルな喫茶店〈スコーピオ〉でコーヒーを飲みながら店のおばあちゃんと話をして、地元の人に教えてもらわないと絶対に入らない〈齋藤製菓堂〉で自分史上No.1のきんつばに舌鼓を打ち、〈スナック聖子〉なのに「あけみママ」がつくるハッピーな空気感に酔いしれ、外湯のひとつ〈まんだら湯〉で湯に浸かりながら思うのです。「あぁ、今日も楽しかったな」と。
事前にたくさんの目的と予定を詰め込む旅も決して悪いものではありません。見たかった風景や食べたかったものを体験できたときの感動があります。一方で、ふらりと出かけて、思いも寄らず素晴らしい店や人、景色に出会う旅もいいものです。旅は思い立ったが吉日、あれこれ考えずにすぐに出かけよう。これからの旅のスタイルはこれでいこうと思います。色々とお世話になった市役所の人たちに「また来てください!」と言われ後にした城崎。はい、絶対行きます。今度は仕事も詰め込まずふらりと再訪します。