自らの殻を穿つ読書のすすめ。 From Editors No.884
From EditorsNo.884 フロム エディターズ
自らの殻を穿つ読書のすすめ。
世の中には2種類の本のしかないという。読まなくていい本と読んでもロクなことにならない本。そんな言葉で始める「危険な読書」シリーズも今年で早くも3回目。まず初めての読者に向けて書いておきますと、「危険な読書」とは政治的、思想的に偏った本であったり、エロ・グロ・ナンセンス専門のブックガイドではありません。過激な本も中には出てきますが、内容よりも、それをどう読むかの方が大切。一方で2018年のベストセラーなど、どこでもすぐに見つかるような本は登場しませんのであしからず。
巻頭は評論家の荻上チキさんとライターの武田砂鉄さんの「骨太! 社会派ノンフィクション』。ラジオの本番同様、よどみなく語る荻上さんと、それに理路整然と合いの手を入れていく武田砂鉄さんの対談は文字起こしがほぼほぼそのまま原稿になるという、精度の高い対談となりました。続く、ベトナム系アメリカ人である詩人のリン・ディンさんと小説家・川上未映子さんの対談は、リンさんの近著『アメリカ死にかけ物語』(河出書房新社)を題材に、トランプ大統領の元であえぐ、アメリカ社会の底辺を生きる人々のリアルな声を拾います。「アメリカはなんでも売り物にする。たとえそれがゲットーでも魅力的に見せてしまう。真実のゲットーは本当に酷いところなのに」というリンさんの言葉は、日頃、MVなどで見慣れた我々の“ゲットー”のイメージを覆す印象的な言葉でした。
少しマニアックな読書の楽しみについても紹介します。たとえば国語辞典を「読書」する人々や本の書体を敏感に感じ取る人たちなど。特に後者のページでは本文にそれぞれ本読み好みの精興舎書体、本欄明朝、凸版文久体、イワタ明朝体を使うなど、地味に手間暇をかけて作ってみました。書体を感じる“シックスセンス”を手に入れたら、読書する楽しみもより一層深まりそうな気がしています
毎度お馴染みの「危険な作家」は大江健三郎、ナボコフ、高原英理、山尾悠子、アラン・ロブ=グリエ、森泉岳土をピックアップ。「小説の楽しみにふたつある。『視る』楽しみと『よじ登る』楽しみだ」と書いたのは、作家・山尾悠子の作品を評した千野帽子さんの言葉。さて、よじ登るような読書体験をした人はどれだけいるでしょう? ぜひ味わってみたいものです。そしてフランス映画で「アラン」といえば、「ドロン」、ではなく「ロブ=グリエ」と答えた貴公はなかなかの趣味人。79歳の“暴走爺”が少女との交歓を題材にした小説『反復』はナボコフの『ロリータ』をある局面では凌駕していた、と執筆の滝本誠さん。ナボコフvsロブ=グリエ、危ないオヤジ対決の軍配はどちらに!?
読書は未知なる世界との遭遇であり、思いもしなかった自分自身を発見するためのものでありたい。世の中にはまだまだこんな本があったのか、そういう発見のあるブックガイドになれば良いなと思っています。本なんて毒にも薬にもならないと思っている人にこそ読んでもらいたい。凝り固まった己の殻を穿つ、そんな“弾丸”となり得る読書体験のすすめです。