マガジンワールド


From Editors No. 828 フロム エディターズ

From Editors 1

サンフランシスコの夜、
一流が育つ仕事場について考えた。

昨年の夏、仕事でサンフランシスコに行きました。1週間に渡る取材を終えて、現地在住のフォトグラファーに連れて行ってもらったのが〈Izakaya Rintaro〉。その店名の通り、日本の居酒屋スタイルの店でした。寄せ豆腐、焼き鳥、唐揚げ、刺身、〆のうどん……なじみのあるメニュー名がお品書きに並びます。しかし、檜のきれいな梁が印象的な内装は、変に“居酒屋風”ではなく、絶妙なバランス感でセンスの良さを感じさせます。たくさんの客で賑やかな店内を物珍しそうに眺めていると、フォトグラファーが耳打ちします。
「阿部さん、ここのオーナーシェフは〈シェ・パニース〉出身なんですよ。それもキッチンに入っていたのではなくて、アリス(・ウォーターズ)のパーソナルアシスタントや店のアートディレクションをしていたんですよ」。
次々と運ばれていく、素朴ながらも洗練された料理を目で追いかける私の横で、フォトグラファーは続けます。
「〈シェ・パニース〉から独立した人たちの店、どこも人気ですよ。レストランやカフェだけじゃなくて、アイスクリームショップをなんか開いた人の店も流行ってますね。店の業態を選ばず人気って面白いですよね」。

この話を聞きながら、思い出したことがありました。日本のイデーのことです。仕事で、酒場で、何かのパーティーで、出逢うシーンはさまざまですが「面白い仕事をしている人だな」と思って話をしていると、イデー出身だとわかることがしばしばありました。それも、〈シェ・パニース〉同様に、ショップオーナー、デザイナー、編集者……など、イデー独立後の仕事が多岐に渡るのです。

サンフランシスコで飲む日本酒に気持ち良く酔いながら「〈シェ・パニース〉やイデーには何か秘密がありそうだぁ」と思ってからおよそ1年、“優秀な人材が育つ理由”を探る機会に恵まれました。探すと次から次に出てくる、各業界で活躍する出身者たち。〈シェ・パニース〉出身者は4名、イデー出身者には20名(!)アプローチしました。あの夜、ほろ酔いの頭で立てた“推論”の結果やいかに?

 
●︎阿部太一(本誌担当編集)
〈Izakaya Rintaro〉のオーナーシェフであるシルヴァン・ミシマ・ブラケットの父親は宮大工。センスの良さが光る店内の内装は父によるもの。
〈Izakaya Rintaro〉のオーナーシェフであるシルヴァン・ミシマ・ブラケットの父親は宮大工。センスの良さが光る店内の内装は父によるもの。



From Editors 2

大いなる勘違いが人を育てるんだなぁ。

上司や先生、先輩の教えはありがたいもので、いざという時に大きな力となって助けてくれます。ありがたい言葉を心の糧に生きていく。「あのときの言葉」の事例をまとめたビジネス本も、よく書店で目にします。ところが、大いなる勘違いが人を育てることもあるようです。自分にとってお守りのように大切にしてきた言葉が、自分の勝手な解釈だったとしたら…。

5年、10年、20年…時を経て師に再会を果たしたとき。あなたは「あの時の言葉がいまでも私の心の支えです。なんとか一人前になれました」などと、感謝の意を表すでしょう。しかし、師は狐につままれたような表情。「いやいや、そんなつもりで言ったんじゃないよ」という話に始まり、挙句、「え? そんなこと言ったっけ? 覚えてないなぁ」なんてやりとりに発展する始末。  

今回、取材を通して分かったことは、皆さん意外と大いなる勘違いを経験されているということ。つまり、教わった人の受け止め方が、その後のキャリアに大きく影響するのです。今回の仕事特集は、学ぶ側の視点に立っています。上司や師匠も大事だけど、もしかしたら学ぶ側の受け止め方がもっと大事なんじゃないの? という話です。

私自身も大いなる勘違い野郎です。それがどう転がったかはさておき(汗)、お守りのように大切にしてきた言葉について振り返ってみると、いろんな思いが過ぎるんです。ありがたや、ありがたや。

 
●鮎川隆史(本誌担当編集)
クリエイティブユニットKIGIの事務所で唯一の住み込みスタッフ。あまりにかわいいので10枚ほど激写。
クリエイティブユニットKIGIの事務所で唯一の住み込みスタッフ。あまりにかわいいので10枚ほど激写。