マガジンワールド


From Editors No. 787 フロム エディターズ

From Editors 1

(個人的な話で恐縮ですが)
私とこの特集との20年前の縁。
国際協力の分野で働く人々に学ぶ今回の特集。私たちの仕事の始まりは、JICA(国際協力機構)・JVC(日本国際ボランティアセンター)・JANIC(国際協力NGOセンター)などに今回の企画趣旨を説明し、人選候補を提案して頂くというところから始まりました。大量に届いたリストを編集部スタッフたちと共に隈無く読みながら取材対象を絞っていく作業。そして最終的な人選に残った方々の活動説明を改めて読んでいた時、20年前の記憶が突如、鮮明に甦ったのでした。

当時20歳だった私はいわゆるバックパッカーだったのですが、ただ世界を放浪することに疑問を感じ始めていました。その時に親友に教えられたのが、フィリピンの田舎町で、ピナトゥボ火山の灰に埋もれた孤児院に滞在しながら復興活動に従事する活動。約1ヶ月弱の滞在でしたが、あの時感じたことや考えたことが、その後の私の人生に大きな影響を与えました。その孤児院を拠点に、子ども支援の活動をされている方がこのリストの中にいる。現場の編集者に「この取材は私に行かせてくれないか」と頼み、20年ぶりにフィリピンを訪れたのです。

カスティリヤホス町の孤児院〈ジャイラホーム〉を拠点に活動するNPO、ACTIONの代表を務める横田宗さん(本誌34-37ページ参照)は、私が行く1年前に高校生で単身この孤児院を訪れ、そのまま今の仕事を始められました。横田さんとマニラで落ち合い、昔話も弾み、3時間が過ぎた頃、クルマはジャイラホームへと到着。ほとんど建物も無かった孤児院は、小学校の建物も併設する大きな敷地に。灰に埋もれていた土地は緑が生い茂り、目の前のガタガタ道は舗装されていました。でも子供たちはあの頃と同じように人懐っこく、孤児院をつくりあげたジョエル神父は変わらずよく笑い。神父は私の目を見てこう言いました。「ジャイラホームがここまで大きくなれたのも、ハジメ(横田さん)のおかげだよ」と。あれから20年、横田さんは、フィリピンの恵まれない子供たちのために、さまざまな活動を続けています。私は、あのとき感じた、世界中で起きていることをもっと知りたいし伝えたいという気持ちを持ちながら今の仕事を続けています。そして今回、横田さんのたくましく素晴らしい生きざまを取材することができた。20年前にこの場所でもやもやと考えていたことが、ひとつ結実したような気がしました。

この特集には、世界の人々のために働く方々がたくさん登場します。慣れない土地で困難を乗り越えながら、お金以上に大切なものを見つけ、人の幸せを願い働く。そして彼らが日々の中で得た世界を生き抜く知恵は、シンプルな言葉ながらも、私たちの胸に深く突き刺さるものでした。世界を生き抜く知恵とは、佳い人生を送る知恵。読者の皆様が自らをゆっくりと見つめてみる機会のひとつになれば、とても嬉しいです。

 
●田島 朗(本誌編集担当)
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20年前に孤児院の子供たちと写真を撮った(上)のと同じ場所で、ジョエル神父と記念写真を撮りました。ジョエル神父は私を見て「20年前と全然変わってないね! お腹以外はね」と言いました。神父、僕も40歳になりました…ToT


 

From Editors 2

世界を舞台に、
誰かのヒーローになる仕事。
「ジャパニーズ・バス・ヒーロー?」

場所はラオスの首都ビエンチャンのセントラル・バス・ステーション。今回の取材対象者の一人であるJICA(国際協力機構)ラオス事務所の譲尾進さんの撮影をしていたときに、地元のラオ人のおじさんに尋ねられました。

イエス、彼はヒーローです。

JICAラオス事務所では、ODAの一環として交通インフラの整備に取り組んでいます。3年前からこの地に赴任し、プロジェクトを進めているのが譲尾さん。停留所に集まる緑色のバスは、日本から供与されたISUZU社製のもので、車体には日本の国旗も貼られています。最終便が17時台だったりと、まだまだ課題はあるものの、ビエンチャンの交通事情を劇的に良化させていることは明らかで、自分たちの生活を便利に、快適にするために働いてくれている譲尾さんは、彼らにとってヒーローなんだなと実感。

人が仕事に求めるモチベーションはさまざまです。自己実現、好きなことの追求、より高い収入、社会的名声……。どの動機が正しいとか、優れているとかはないけれど、それでも、「誰かのために」する仕事には有無を言わせぬ力があり、羨ましくも思います。譲尾さんをはじめ、今回の特集に登場するのは、世界を舞台に誰かのヒーローになっている働き人たち。彼らが得たノウハウ、知恵、仕事術は人それぞれですが、その背景に共通してあるのは、ごく純粋な願望なんだと感じました。

●中西 剛(本誌編集担当)
日本で見慣れた緑の車体が並んでいるのを見ると、一瞬ここがラオスなのか疑いたくなる。本誌では社会学者の古市憲寿さんに、譲尾さんに会いに行ってもらいました。(p.44-47)
日本で見慣れた緑の車体が並んでいるのを見ると、一瞬ここがラオスなのか疑いたくなる。本誌では社会学者の古市憲寿さんに、譲尾さんに会いに行ってもらいました。(p.44-47)