マガジンワールド

From Editors No. 779 フロム エディターズ

From Editors 1

喫茶店って、いったいなんだ?
モヤモヤと考えながら、出た結論。
「次は喫茶店の特集やってもらうから」。3月の始め、編集長にそう言われた時、小躍りしました。自称喫茶店好き。街で休憩をとる時も、おしゃれ“カフェ”でなく、いわゆる“喫茶店”を選びがち。ナポリタンがあれば頼まずにいられないし、スポーツ新聞とブレンドと煙草で何時間も過ごせるタチです。迷惑な客かもしれません。特集がキックオフすると、打ち合わせやロケハンで、いろんな店を巡りました。巡れば巡るほど、頭のなかに疑問符がついて回ります。「はたしてここは喫茶店なのか?」「喫茶店とカフェの違いは?」「店名にカフェってついていたら喫茶店じゃないのか」。モヤモヤモヤモヤ……。

最も根本的な疑問が「そもそも喫茶店ってなんだ?」ということ。

コーヒー専門店、大バコの大衆的な店、地元に根ざした個人経営の小体な店、チェーン店まで“喫茶店”と呼ばれるものには実にさまざまなスタイルがあります。振り返ると、当初は、正しい喫茶店のあり方や定義にとらわれすぎていたフシがあります。いろんな人にも話を聞きました。みなそれぞれ、自分の頭の中に描く喫茶店像が違うし、どの意見も頷けるものでした。ふと思いました。喫茶店に正解なんてないんじゃないか。そんなとき、「全国の若い喫茶店主に会いに行く」という企画でご一緒した編集者の大先輩・岡本仁さんの一言が胸のモヤモヤをスッと取ってくれました。

「喫茶する心があって、それを満たしてくれる店は、すべて喫茶店なんじゃないかな」。

100人いたら100通り。行った人がほっとひと息つける。なるほど、共通点はそれぐらいでいいのかも。というわけで、今回の特集では、大上段に構えた正しい喫茶店論などは登場しません。全国100軒超のお店を紹介していますが、そのタイプは本当にさまざまです。でも、すべてが“喫茶店”である、といまは自信を持って言えます。読者のみなさんの行きつけになるようなお店がひとつふたつ、見つかれば幸いです。なじみの喫茶店があることは、日々の生活をとても豊かにしてくれます。個人的な喜びで恐縮ですが……打ち合わせならここだな、昼飯食うならここだな、サボるならここだな、と今回の特集を経て、いろんな街に喫茶店のブックマークが増えたのがなによりの収穫です。ちなみに私がなじみにしたい喫茶店は「普段着で行けて、煙草が吸えて、周りの目を気にしないでよくて、軽食がうまい店」です。あ、パフェもあったらいいですね。

みなさんが喫茶店に求めるものはなんですか?

南千住の名店〈カフェ・バッハ〉にて、同じく担当の町田と。うまいコーヒーとケーキをいただきながら、喫茶店を考える。
南千住の名店〈カフェ・バッハ〉にて、同じく担当の町田と。うまいコーヒーとケーキをいただきながら、喫茶店を考える。
高知の〈テルツォ・テンポ〉で。カメラマンの撮影をあたたかく見守る岡本仁さんの大きな背中。
高知の〈テルツォ・テンポ〉で。カメラマンの撮影をあたたかく見守る岡本仁さんの大きな背中。


●星野 徹(本誌担当編集)
 

From Editors 2

(喫)サテンのある街に住みたい。
最近、鎌倉に引っ越したのですが、駅のすぐ側に<ロンディーノ>という喫茶店があり、そこがとてもいい店なのですが、自分の住んでいる街、さらに言えば駅近くに、いい喫茶店があるというのは、重複しますがいいですね。会社に行く前、喫茶店で過ごす時間を考えて家を出ると、のんびりと、というか、ゆとりを持ってその後の一日を過ごせます。おお、いい時間過ごしてるなぁ俺、……って悦に入り、ちょっと大人になった気も。既に実年齢は十分過ぎるほど大人なんですが。

<ロンディーノ>では厚切りのトーストをよく頼みます。サイドディッシュはマヨネーズをあえた軽くてマイルドな「タマゴ」も捨てがたいのですが、真っ白いシンプルな「ポテトサラダ」がおすすめ。フレンチドレシングのかかったつけあわせのレタスをちぎって、ポテトサラダと一緒にトーストにのせて食べる。なんでもない味ですがなんでこんなに美味いんですかね、喫茶店のトーストは。そこで一人で過ごす時間も味に入っているのかも、なんて。私の好みなんてどうでもいいと思いますが、もう少し。コーヒーはジャーマンだ! 喫茶店だとコーヒーの濃さ(煎りの深さ)をアメリカンとかジャーマン、フレンチとか、国名で呼ぶのはなぜでしょうか。ジャーマンは中煎りぐらい? これは日本の喫茶店に特有だそうです。アメリカにいって「アメリカンひとつ」と言っても通じないらしいですよ、お父さん。エスプレッソを薄めたアメリケーノってシャレた飲み物はあるらしいですが。気取らない、並ばない、高くない(値段が)のも喫茶店のいいところ。

世に言う”サードウェーブ”を経験し、はじめてコーヒーの味というものがわかった気になっていましたが、喫茶店を巡ってからはすっかり「浅煎り」では物足りなくなりました。喫茶店のコーヒーは基本「深煎り」「ブレンド」ですからね。油でグロッと黒光りしているぐらいしっかりローストした豆で、ダークチェリーのような後味がするものとか、魔性の味ですよね。喫茶店の魅力を再発見する過程でコーヒーの味を新発見、というのが喫茶店巡りをした成果であります。

銀座、浅草、神保町(名店が多い、東京における喫茶三大聖地)をはじめ、いろいろとまわりましたが、喫茶店を知るとその街と自分の間にある溝をひとつ埋める感じがしました。その街に自分のフラッグを立てるというか、居場所を作るというか、その街がもう一歩近くなる感じ。これはおいしい蕎麦屋や居酒屋にいくのとはまた違いますね。喫茶店はわざわざ電車に乗っていかないですし、あと誤解を恐れずに言えば美味しくなくてもいい。銀座ならランブル、渋谷なら茶亭羽當、恵比寿ならヴェルデ、浅草ならアロマとか。いずれも ”おいしい” 名店なので説得力がありませんが。

浅草のアロマ。トースト1枚110円という価格もいいし美味いし、お客さんも地元の人ばかりで、金原亭伯楽の落語について話してたし。次は最寄り駅の田原町近くに引っ越そうかな。
浅草のアロマ。トースト1枚110円という価格もいいし美味いし、お客さんも地元の人ばかりで、金原亭伯楽の落語について話してたし。次は最寄り駅の田原町近くに引っ越そうかな。


●町田雄二(本誌担当編集)
 
ブルータス No. 779

喫茶店好き

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ブルータス No. 779 —『喫茶店好き』

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